ボージョレ地方(8)で食べたお母さんの味 ブッフブルギニオン

バカンスでかなりお金を費やした私はブザンソン大学の新学期が始まるまでに少しお小遣いをためたかった。大学のCROUS(政府学生支援機構)の掲示板にいろいろなアルバイト情報が張ってあったが、そこで小さな新聞の広告記事を見つけた。
2週間、住居、3食事付き、1日6000円というワインを醸造するための葡萄摘みのアルバイトだった。好条件だし、おまけにワインの製造過程なども見学できる。早速メモ帳に写して、自宅に戻ると、園主宛に手紙を書いた。
2~3日もすると労働許可の返事が来た。

一週間後、荷物をたくさん詰め込んだバックパックを背負いリヨンディジョンに挟まれたヴィルフランシュという村へと向かった。

「ようこそ。Vendangeへ。よくきてくれましたね。」

ほとんどがヴァカンスを利用しての短期アルバイトを希望する学生だった。仕事の手順を園主からおさわると、次の日から仕事は始まった。

朝6時半から始まり、午後6時まで。一時間の昼食を挟むが、中腰状態で葡萄の房をナイフで刈り取りバケツに入れてトラックまで運ぶ。
中腰状態で10時間もいるので、足はがくがく、手は真っ赤に腫れ上がるし、腰は痛くて曲がらなくなるし・・・想像を絶するほどの重労働だった。

あまりにも辛くて、放り投げて実家に帰ってしまう人さえいた。


私も葡萄のたくさん入ったバケツを何回も移動させたので最後の日は腰が痛くて立ち上がれなくなってしまった。
しかしここには、なによりもの至福一時があった。
マダムが丹精込めてブルゴーニュ地方の家庭料理を毎日もてはやしてくれるのである。
10時間の労働そして疲労困憊した後は、待ちに待った夕食だ。
「A la table!(ごはんよ。)」園主の奥さんの声でみんな食堂に集まる。
「さあ。みんな。朝早くからお疲れ様でしたね。今日はこの畑でとれた葡萄を熟成させたワインをふんだんに使って3時間煮込んだ牛のブルギニオンよ」
みんなで大皿から取り分ける。待ちに待ったマダムの手料理を突っつき合って食べる。ワインも飲み放題だ。

赤ワインをふんだんに入れて煮込んでいるので、濃厚な赤ワインのタンニンの味。ガルニとして付け加えられたポテトのクリーム煮。一緒に食べると絶品だ。
「なんて美味しいんだろう」

みんな幸せの瞬間だ。

ブルギニョンとはブルゴーニュの赤ワインをたっぷり使って牛肉を煮込んだお料理で、日本でいうビーフシチューの原型にあたるようなものだ。


牛すね肉とこの地方の赤ワインとは最高のマリアージュだ。

大皿からみんなで突っつき合って食べたあの醍醐味は忘れない。

毎日いろいろな家庭料理やデザートをサービスしてくれたが、マダムの作る郷土料理は今までに食べたことのない最高のごちそうであった。
そんなボージョレ地方の赤ワインたっぷり入れて牛すね肉、にんにく、タマネギ、ロリエ、にんじんなどの煮込みを今日は作ってみた。
このブルギニオンを食べるたびにあのときの感動がよみがえってくる。
葡萄の収穫のアルバイトはきつかったがマダムの手料理を教えてもらったのはこの上もない収穫であった。

 

ブッフブルギニオンを食べるたびに

「A la Table!(ごはんよ)」

マダムの声がなんとなく遠くから聞こえてくるような気がする。

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