パリに住んでいた時は、いろいろなアパートに移り住んだ。
16区ヴィクトリユーゴー通り(凱旋門近く高級住宅地といえども実際には屋根裏部屋で昔女中部屋と言われていた最階上のアパート)8区ワシントン通り(シャンゼリゼ近くだが観光客が夜中うるさくて眠れなかった)13区ショワジー(中国人街近くで中国の食材マルシェがたくさん)サンジェルマン界隈(パリ大学の学生街)ベルビル(移民が多い)マラコフ(郊外)などなど。
中でもサンジェルマンのアンシエンヌ・コメディ通りの小さなアパートはとてもよかった。
調理師学校時代、学校で習ったものを家に帰ってから復習しなくてはならない。少し広めのキッチンのあるアパートを探していたら友人が紹介してくれたのである。日本で言うと1DKかな。こじんまりとしているがお洒落なビュッシー市場がすぐ近いので、ここでいつも買い物をしていた。
パリの建物はみっちりと隙間なく建てられているように見えるが裏側に中庭があるアパルトマンが多い。
そして私のキッチンからも中庭につながるように大きな窓があって、そこから眺めるお庭は最高、憩いの空間である。木漏れ日がここにも優しく差し込んでくる。窓からはそよ風がすっと入ってくるので、キッチンでいくらオーブンやガス火を使った料理をしても開けっぱなしにしておくと暑いということはなかった(近年は温暖化でどうかな)
キッチン台にはオーブンがはめ込まれているので、天板に肉や野菜、またはフルーツタルトなどをのせて、すぐオーブンに入れられる。簡単に調理ができるのでこの国の家庭料理はオーブン料理が多いのもうなずける。
調理師学校で習ったものを家に帰ってきてもう一度復習してみる。ビュッシー通りのマルシェによって必要な材料を揃える。私はこの市場で(一人分を作るのは合理的でないので)4人分の材料を買ってきて試作していた。日本とは素材の大きさ、質、味がすべて違うので、調理のノウハウが違ってくる。肉屋さんの肉は塊で売られているし薄切りしたスライス肉がない。豚や鶏などのひき肉がない。八百屋さんのなすもキュウリも異常に大きい。変わった野菜がいっぱいある。
来たばかりの時は何でもめずらしくて、好奇心一杯。八百屋さんのニコルや肉屋さんのディディエに調理の仕方を教えてもらい、アパートでよく試作してみたものだった。
4人前だと多いので、同じ階の隣に住んでいたフランス人のフランソワ、ドイツ人学生のカリーナなどによく食べてもらい評価をもらっていた。
「まこ。すごく美味しいわよ。ちょっとお醤油を入れて、和風にアレンジしたのね!」
昆布風味の鯛のカルパチオ、麹仕立ての茄子とズッキーニのラタトゥイユ、そして抹茶のケーキ。これらは特に好評だった。
そんなことで、4人前作ると、一人では食べきれないので彼女たちにも食べにきてもらい瞬く間になくなった。
アパートの同階にすむ学生たちにジャポネーズの作るお料理は美味しいと注目を浴びていったのだった。
そんなことで食を通して学生の友達が広がっていったのである。
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