「まこ。お正月があけたら、一度家に遊びに来ない?」
カロリーヌはブザンソン大学の図書館で知り合った文学部の修士課程を準備中の学生だ。
図書館ではよく隣の席で勉強し、私にもフランス語のジョークなどを教えてくれた面白い女の子である。
クリスマスが終わって、少し静かになったかなと思っていたが、カロリーヌが実家のパーティに招待してくれるというのだ。
私はワインを小脇に抱えてマドレーヌ広場から近くの彼女のアパルトマンのベルを鳴らすと、
「ボンジュール、マコ」
早速リビングルームに案内してくれると、カロリーヌの家族はすでに私を待っていた。テーブル上には、黄色い水仙の花が飾られ、今まさにオーブンから出したと思われるこんがりときつね色に焼けたパイのバターの香りがぷーんとただよっていた。
クリスマスの時にはビュッシュドノエルだが、年が明けると、すぐにこのガレットデロワが至るお菓子屋さんのショーウインドーに並んでいる。
お母さんが、まず午後のコーヒーを出してくれると、アップルパイのような形をしたガレットをお父さんが切り分けて、お皿の上にのせてくれた。
「これはクリスマスから10日経つと、公現節というお祝いがあるの。キリストの誕生にあたり天使からの告知を受けて三人の賢者がベツレヘムのキリストの誕生を拝みに来るといわれている日なのよ。それをお祝いしてガレットデロワ(王様のガレット)を食べるようになったのよ。」
私はどんな味がするのか楽しみにこのパイを食べていると、突然、アーモンドクリームの中にかちんと歯に当たるものがあった。
「あれ?これは何?」
「マコ!当たった~!それがフェーブ(陶器)というものよ。今日はあなたが王女様。相手の王様を選ぶのよ」
なんだかわけが分からないまま、王様にはカロリーヌのパパを指してしまった。そして、お母さんはパパの頭の上に黄金の紙でできた王冠をのせた。
「王妃様のマコ。王様のパパ。バンザーイ。今年は二人ともきっと幸せな年になれるわよ」
みんなはガレットデロワの歌を歌い,踊り出した。
Dans la galette des rois ♬ ドン ラ ガレット デ ロワ~ ♯ ♭ ♫ ♪ ♬
この日までクリスマスツリーが置かれる。
というのは本物の樅のでできたクリスマスツリーの横にクレーシュ(キリスト生誕のお人形)が置かれ、このイエスキリストを発見した三人の博士のお人形も三つ加わり真のキリストの誕生を祝うという意味で一層華やかになるのだ。
これで本当のクリスマスツリーの完成だ。
年が明けて、この日までクリスマスツリーを飾っておくのにはびっくりした。
この日が公にキリストが生まれたということが承認された日(公現説)だからということだ。
ドンクで販売しているガレットデロワ。今では日本でもこのおみくじのパイは静かなブームになっています。
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