エレーナはアルザス地方出身の文学部の学生だ。ブザンソン大学のアジア文化史の生徒である。
校内で日本文化祭が行われ、私は抹茶ケーキを担当し・・・そんな日仏親善を深めていたときに、彼女に作り方を教えてあげたのがきっかけでエレーナとは知り合いになった。
日本のお菓子を教えたのと引き替えに彼女のアパートに招いてくれ、お互いにお菓子好きがこうじてとても仲良くなった。
ある日彼女が働いていたカフェでのアルバイトが終わると早速、私をティータイムに呼んでくれた。
アルザス地方(ドイツと隣接したフランス東部)はサクランボやベリーの宝庫だ。
昔はここはドイツ領だったのでその名残でドイツのケーキの影響がとても強い。
彼女はそのチーズケーキの生地に生のサワーチェリーやブルーベリーをのせクランブルを上からかけて焼いていた。
「生のチェリーやブルーベリーを入れるのね」
細かくしたバターにアーモンドパウダー、小麦粉、きび砂糖(sucre de canne)を加えて、クランブルを作る。
半分は底に敷いて、残り半分は上からトッピングする。クワルク(クリームチーズ)にきび砂糖、生クリーム、レモン汁、卵、小麦粉を加える。あまりこねずに、さっと攪拌する。半分型に流し込んだら、ベリー類をいれて、残り半分を流し込んだら、上から残りのベリー類をトッピングする。
170°の低温で50分やく。
しっとりとしていてチェリーとベリーの酸味がほどよくマッチしている。
初めて味わうエレーナの作ってくれたチーズケーキに感動したものだ。
今ではアメリカンチェリーを生で入れて焼いたお菓子があるが、昔日本ではフレッシュフルーツを入れて焼くことはあまりなかったのでとても新鮮だった。
彼女の作ってくれたチーズケーキはアルザス地方の家庭ではよく作られるママンの味なのだとか。
エレーヌはお菓子作りが趣味とあって、この他にもサンドクーヘンやルバールのタルトなどアルザス地方のお菓子を教えてくれた。
彼女とは大学がいっしょだし、東洋に非常に興味があることもあって、とても打ち解けて話のできる友人の一人だった。
一般的にチーズケーキだがフランスではあまりお菓子屋さんにない。レストランでサービスされるチーズスフレやバスクチーズケーキ(これはスペインのバスク地方)のようなものはあるが。。。
しかしドイツの影響をうけたこのアルザス地方では、チーズケーキは至る所でみられる。隣の国ドイツに行くと、クワルクを使ったチーズケーキはお菓子屋さんでは一般的である。
フランス人との会話でよく聞くのが、「甘いチーズは受け入れ難い」という。
特に年配のフランス人に多い。
彼らにとっては、チーズ=塩味の物というのが一般的なのである。
しかし今の若いパリジェンヌのあいだでは、チーズケーキがちょっとしたトレンドになっているのだ。
今日は、そんなエレーヌとの思い出のお菓子を昔のレシピノートを見ながら作ってみた。
今回は生のグリオットのチェリーは手に入りにくいので、ミシガン州のサワーチェリーとブルーベリーの瓶詰を使用した。
午後のカフェオーレと共にほんのり酸味のきいたベリーのチーズケーキは初夏の味、一緒にお菓子を作ったエレーヌのことを思い浮かべながらのんびりとスイーツを嗜みました。
★このケーキはクワルクを使うのだが、もちろんクリームチーズでも充分美味しい物ができる。
クワルク(ドイツ語圏で作られるフレッシュチーズ)で、 製法は、サワーミルクをタンパク質が凝固しきるまで温め漉して作る。 フロマージュ・ブランににた白く未成熟な柔らかいチーズ)
チーズの大国のフランスであるがチーズに砂糖を加えて作るデザートは今まで決して組み合わさることがなかった。
日本やドイツ、アメリカで好まれるチーズケーキが、フランスでなかなか定着しなかった。
ところが近年のパリでは、チーズケーキを扱うお菓子屋さんがかなり増えているという。
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