「美味しそうなにお~い。」
ゴベッティ家の玄関の扉を開けると、ぷ~とこんがりと焼けたチーズの香りがした。
「寒かったでしょう。早くお入りなさい」
手袋をとってリビング入ると、オーブンから出したばかりのこんがりきつね色になったグラタンが机の上にのっていた。
私が住んでいたフランスのブザンソンというところはスイスに隣接した風光明媚なところであった。下宿していたゴベッテッィ家は丘の上にあり、そこまで徒歩だと40分、ケーブルカーだと10分かかった。眺めのいい丘の中腹にあり見渡す限り緑が生い茂っていて、アルプス山脈も近い。
だが、冬はよく雪が降り凍てつくように寒かった。
そんな寒い田舎に慣れるのにかなり時間がかかったが、彼女の作ってくれた真心のこもった料理の数々がそんな冬の厳しさを忘れさせてくれた。
熱々のグラタンの上に硬質のコンテチーズをチーズグレーター(四面のチーズ卸し)でたっぷり削る。
「さあ。召し上がれ」
豪快にお皿の上によそる。
熱々のグラタンを口の中で頬張るとそれは、レストランでは味わうことのできないこの地方特有の田舎料理という感じがした。それは冷え切った私の体をほっこりと温めてくれ本当に美味しかった。
このグラタンはブザンソンの名産のコンテチーズ(硬質)を使って、蒸した長ねぎ、カリフラワー、カルドンなどの冬野菜をふんだんに入れたコンテ地方の郷土料理である。
コンテチーズならではの芳醇な香りが焼いているそばから漂い、濃厚な味になった。
今日はそんなマダムゴベッティのレシピを元にコンテ地方のグラタンを作った。
森が多くキノコの産地でもあり、グラタンの中によく入れたりしたのでコンテ地方のチーズをたっぶりとかけたきのこのグラタンを作ってみた。
原材料となる生クリーム、バター、牛乳などが違うのであのマダムが作ってくれた味とは多少ちがうが、ブザンソンでのゴベッティ家での下宿生活を想い出しながらフランス風ママンの味を午後の紅茶と共に嗜んだ。
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