
私が通っていた学校はパリ市が運営するフェランディという調理師を目指すための職業訓練学校でした。
ここでフランス人は、調理師の国家試験に合格するために勉強し社会人になるための一歩を踏むわけです。
ある日私たちの調理実習の専任教授であったジル先生は、一人暮らしだったアメリカ人のカレンと私をクリスマスのイブは淋しいだろうからといって先生の自宅で過ごすように招待してくれたのです。
クリスマス・イブは、日本では、みんなでパーティ、恋人たちのデートの日、という印象が強いのですが、カトリックの国フランスのクリスマスは、日本のお正月のようなもので、それまでにみんな仕事をひと段落させ、25日は、家族で過ごすのが一般的なのです。
だから想像以上に、クリスマスは静かなのです。
郊外のマンションに住むジル先生の家は、4DKでとても広く小学生、幼稚園生の男の子の子供部屋も二つありました。
さすが調理師学校の先生とだけあって、キッチンはとても広くて、奥さんはあまりキッチンに入らず、ジル先生がすべて手作りでお料理を切り盛りしていました。私はパリで買い求めたCHOYAの梅酒を持参すると、ジル家の人々はとてもよろこんでくれました。
早速クリスマスイブの始まりです。
「A table…アターブル みんな席について」
ジル先生のパパが、シャンパンをみんなに注ぎます。
「Joyeux Noelクリスマスおめでとう」
かんぱ~い。
ジル先生は、フォアグラを一週間前にマデラ酒で漬けこみ寝かしオーブンで焼いたテリーヌを早速提供してくれました。
マデラ酒の香りがぷーんと漂ってきて酔ってしまいそうですが、とろけるような味わいです。
ブロン産(平たい)の生牡蠣もエシャロットの入ったヴィネガーで殻ごと口の中にスーと入れるとまろやかな潮の香りが口いっぱい広がります。
栗を牛乳で煮て、それを七面鳥の中に詰め込んでローストしたメイン料理も初めての味に舌鼓をうつ。
最後は待ちに待ったデザートです。
子供たちはこの時間を首を長くして待っていました。
ジル先生オリジナルのロールケーキにチョコレート風味のクリームをたっぷり塗ってデコレーションしたビュッシュドノエル。イチゴと生クリームでサンタさんを作り、チョコのロールケーキの上に飾ります。
昔はよく薪の木のケーキを作っていましたが、今はかなり自由になっています。
ビュッシュドノエルにパウダージュガーをかける。まるで粉雪が舞うように。
「ホワイトクリスマスだよ~」
子供たちは目を点にして、
「うわー。きれい~」
ジル先生は子供たちを喜ばせるのがうまい。
ラム酒がきいていて、ちょっぴり大人の味でしたが、子供たちは大喜び。
さすが調理師学校の先生だけあります。
ディナーが終わると深夜のミサに参加するために夜11時頃カトリック教会にみんなで行きます。
教会の中はクリスマスの賛美歌で神聖な雰囲気になります。そして神父さんの説教を聞いて帰ります。
家ではプレゼント交換が待っていました。
私は日本から持参した扇子とパリの虎屋で買った抹茶のカステラ。両方ともエキゾチックだといってとても賞賛されました。その後も子供たちを寝かすと延々と宴は続いていました。
クリスマスは一般的に家族のお祝いなので友達などを呼びませんが、私たちはこの神聖なセレブレーションに招かれとて、とてもしあわせでした。
カレンと私は子供部屋に寝かせてもらうことができたので帰途のことを考えず、ほろ酔い気分で最高の一夜をすごしたものでした。
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